読書履歴2021年6月を掲載しました

読書履歴2021年6月

 

6月に読了した本17冊をすべて、「推奨度合い」と「ひと言コメント」を付してご紹介します。「推奨度合い」は、★の数にて表示します(1~4までの4段階評価です。詳細は先月の投稿参照)。

 

  • 「同時通訳者が『訳せなかった』英語フレーズ」(松下佳世編著、イカロス出版、¥1780)★★★☆

 

最初の4冊は英語シリーズです。英語に関心あるかたはザーと目を通す価値はあると思います。

最初の本は同時通訳者27人が経験した失敗談を集めた本です。松下さんが、コロナ禍で仕事の減った同時通訳者仲間に声をかけ、一般の人にも参考になりそうな失敗エピソードを集めようという企画です。同時通訳者のプロでも失敗するということを知れば、読者も肩の力が抜けて楽しみながら英語力を高められるのでは、という配慮です。松下さんによれば、通訳者の日常は失敗の連続だそうです。一方、通訳現場でかいた恥の数々は、いまでも鮮明に覚えていて、二度と同じ過ちは犯さないように研鑽を重ねるそうです。では、失敗談の数々をお楽しみください。

 

  • 「英語で言いたい日本語の慣用表現」(柴田真一・鶴田知佳子、アルク、¥2200)★★★☆

 

2冊目は慣用表現の辞書のような本です。著者は元銀行員の柴田氏(小職のみずほ銀行の後輩です)と同時通訳者の鶴田さんです。「イチ押し」「空気を読む」「冷や汗」「楽勝」など日本人であれば、日常的に使いそうな慣用表現を英語では何と表現するのだろう、、、というのが出発点ですね。わかりにくり日本語を英語にしやすい日本語に和文和訳するテクニックが一杯詰まってます。

 

  • 「英単語使い分けグラデーションマップ」(平見尚隆、ペレ出版、¥1500)★★★☆

 

3冊目は同じ日本語であっても使う英単語や表現次第で意味の強弱や丁寧さの高低の違いが生まれるというのを教えてくれる本です。外国人は英語では微妙なニュアンスを使い分けているという実態がよくわかります。

 

  • 「日本人の9割が間違える英語表現100」(キャサリン・A・クラフト、里中哲彦翻訳、ちくま新書、¥780)★★★★

 

最後の著者はアメリカ人で、大学時代に南山大学に交換留学生として来日して以来、日本に住み着いて、通訳、翻訳、英語講師等で活躍中の方です。もちろん日本語は流暢ですが、他にフランス語、イタリア語、ロシア語が話せるようです。普段、日本人がいかに意味不明の英語を話しているのか、いかに無礼な表現を使っているのかが良―くわかります。例えば、日本人は“See you again.を連発しますが、ネイティブはその表現は使わないそうです。なぜなら、それは「最後のお別れの言葉だから、、、、」など、身につまされるエピソードが満載です。

 

  • 「サイボウズ流テレワークの教科書」(サイボウズチームワーク総研、総合法令出版、¥1900)★☆☆☆

 

テレワークがなぜ定着しないか、を原因に応じて分析し、対応策を指南しようというサイボウズ流問題解決本です。原因は大きく3つあるようですー①作業環境の悩み(ITツールが使いづらい、ッセキュりティが心配、等)、②コミュニケーションの悩み(会話ができない、なんだか寂しい、等)、③マネジメントの悩み(部下の顔が見えない、仕事の進行が遅くなった、等)。サイボウズはITソフト開発会社ですから、テレワークはお手の物でしょうが、、、、多様なお客様の問題解決を支援してきた経験値が披露されています。

 

  • 「ブラックストーン・ウェイ PEファンドの王者が語る投資のすべて」(スティーブ・シュワルマン、熊谷淳子訳、株式会社翔泳社、¥2600)★★★★

 

これは必読書ですね。金融関係者のみならず、起業をお考えの方ならだれにでも参考になるヒントが詰まっています。 著者は言わずと知れたプライベートエクイテイ投資会社ブラックストーンの創業者であり(1983年創業)現会長兼CEOというバリバリの起業家・経営者です。創業者としての熱い思い、こだわりが随所にエピソードとともに描かれます。経営者としての哲学も強烈ですね。本書の帯に印刷された本書の推薦者のリストがまたスゴイですージャック・ウェルチ元GECEO、エリック・シュミット元グーグル・CEO、メアリー・パーラGMCEO、ジャネット・イエレン元FRB議長、ヘンリー・キッシンジャー元米国務長官、マーク・カーニー元イングランド銀行総裁、等々。

 

  • 「温泉教授・松田忠徳の新日本百名湯」(松田忠徳、日経ビジネス文庫、¥762)★★☆☆

 

登山が好きな人であれば、日本百名山、二百名山といった著名な山のランキングが編集されているのは良くご存じだと思います。本書は、温泉好きーたいていの日本人はそうだと思いますが、、―向けに日本中の温泉を解説・推薦してくれている本です。多分皆さんの出身地の温泉もはいっていると思います。ちなみに小職の故郷山口県の温泉は3つ載っていますー長門湯本温泉、俵山温泉、そして川棚温泉です。もちろんいずれ温泉も入ったことあります。

 

  • 「天ハ自ラ助クル者ヲ助ク 中村正直と『西国立志編』」(平川祐弘、名古屋大学出版会、¥4180)★★★★

 

明治時代のベストセラー「西国立志編」(サミュエル・スマイルズ著、中村正直訳)を比較文学の大家平川氏が分かりやすく解説してくれています。 日本文明と西欧文明の幕末から明治時代の出会いを専門分野の一つとしている平川氏ならではの、解説でなぜこの本がベストセラーになったのか、なぜ日本の近代化の教科書となったのかがわかります。日本の歴史を理解する上では、必読書といえるでしょう。

 

  • 「西国立志編」(サミュエル・スマイルズ、中村正直訳、講談社学術文庫。¥1600)★☆☆☆

 

翻訳本といっても、明治4年に発行された本ですから、旧仮名遣いかつ、漢文の書き下し文を読んでいる雰囲気満載の本です。現代人にはともて読み切れません。というわけで、本文は読み飛ばして、渡部昇一氏の書いた「まえがき」と「解説」だけでも読む価値があります。何しろ、本書は明示時代のベストセラーで、福沢諭吉の「学問のすすめ」と並んで人々に広く読まれ、日本の近代化の基礎構築に貢献したとされる本ですから、、、。

 

  • 「日本をひらいた国家理想 五箇条の御誓文の真実」(伊藤哲夫、致知出版社、¥1500)★★★★

 

日本の歴史の転換点が3つあると小職は思っていますー①最初は日本の国造りの基礎を固めた飛鳥・平安時代の国風文化の確立と天皇中心の中央集権体制構築の時代、②江戸の封建制度・鎖国状態から開国し近代化を短期間で成し遂げ、先進国の仲間入りを果たした幕末から明治にかけて、③そして、太平洋戦争に敗れて日本の歴史が実質的に書き換えられてしまった大戦後のGHQ占領時代です。本書は、日本の近代化に大きな役割を果たした明治天皇が明治元年に発出した五箇条の御誓文を巡る数々のエピソードをまとめた本です。時代背景や当時の人達の思いが伝わってきます。日本人なら知っておきたい事実関係ばかりです。

 

  • 「長州藩抜荷始末記 幕末前夜・天下のオウドウモノ村田清風秘録」(津田恒、郁朋社、¥1000)★★★★

 

山口県長門市出身のかたならば、地元の英雄村田清風の名前を聞いたことがあるでしょう。多くのかたは、三隅にある村田清風記念館を訪れたこともあるでしょう。江戸時代、毛利藩は外様大名として37万石に減俸され、台所は大借金で火の車でした。 それが、幕末になると薩摩と組んで倒幕を果たすヒーローを多く生み出すのですから、歴史は不思議で一杯ですね。しかし、本書を読めば、毛利藩がいかに借金を返し、倒幕を果たすための軍資金を蓄えたのかが見えてきます。そこには不思議はありません。適材適所、アイデア、商才が大いに生かされるとなにが起きうるのかがわかります。大津緑洋高校卒業生には必読書でしょう!!

 

  • 「金子みすゞの童謡を読む」(ナーヘド・アルメリ、港の人、¥2000)★★★★

 

この本も大津緑葉高校卒業生には必読書です。学校の大先輩にあたる詩人金子みすゞの童謡を分析した本です。金子みすゞについては、以前矢崎節夫氏の本を図書案内で紹介したことを覚えている方もいらっしゃるでしょう。矢崎氏は金子みすゞを再発見した張本人ですし、長門市にある金子みすゞ間の館長でもある人ですから、みすゞへの思いは深いものがるのあは当然ですし、みすゞについての知識も半端ではありませんから。

この本の何が素晴らしいか? 何に驚かせられるか? まず、著者は日本人ではありません。シリア人です。シリア人が日本語で書いた本です。次に著者はシリアの大学でたまたま日本語を専攻し、成績優秀で日本に留学させてもらい2012年筑波大学大学院に入り、金子みすゞを研究し、博士課程の論文で金子みすゞについて書いた博士論文「大正期の童謡研究―金子みすゞの位置づけ」が優秀博士論文賞を受賞し、その一部が本書となっているということです。著者は現在、帰国しダマスカス大学日本語学科で教鞭をとっているそうです。

本書を読むまで知りませんでしたが、中東で文學といえば「詩」だそうです。日本文学における「小説」のような位置づけなのでしょう。従って、著者には日本語習得以前にみすゞの詩を分析する力が備わっていたと言えるのでしょう。それにしても、分析の鋭さ、深さ、視点の置き方には脱帽です。日本語力も素晴らしいですね。西城八十と北原白秋と金子みすゞを比較分析してくれているのも嬉しいし、分かりやすい視点ですね。もう一度言います。後輩の卒業生にとっては必読書です。

 

  • 「丸山眞男セレクション」(杉田敦編、平凡社、¥1000)★☆☆☆

 

知の巨人、近代最大の教養人の一人とも評される丸山眞男の主要論文に一度は目を通しておきたいと思い、手に取った本です。結論を申し上げましょう。頭の中がよほど高尚にできているのかわかりませんが、読んでも何を言おうとしているのかサッパリわかりません。言語明瞭、意味不明とはこのことか、を思い知らされました。 大手新聞社のエリートの人達と同じで、パラグラフライティングの基礎が分かっていません。多分、丸山の文章は英語にできないでしょうし、日本語のわかる外国人が日本語読んでも理解できないでしょう。本論の中の「日本の思想」だけには目を通して、杉田氏による解説とあとがきだけを読むことをおすすめします。

 

  • 「国際ニュースの読み方」(馬淵睦夫、マガジンハウス、¥900)★★★★ 

 

著者は京都大学在籍中に外交官試験に合格し、1968年外務省に入省、1971年ケンブリッジ大学経済学部卒業、2000年キューバ大使、2005年ウクライナ大使兼モヅドバ大使まで務めた人です(2008年退官)。帯には「複雑怪奇な国際関係をつかむ元大使の白熱講義」と銘打ってあります。驚きました。さすが、(東大ではなく)京大出身者というべきか、英国ケンブリッジで薫陶を受けたからというべきか、、、これほど、物事の白黒をハッキリをさせて発言できる元官僚もいるのですね、、、。 見識も一般の教養人とはかなり違います。 トランプ大統領のいうディープステートの背景にあるグローバリズムを主宰するユダヤ人を中心とする国際資本家連中が現在のグローバリズム思想を主導していると主張します。また、米国の歴史修正主義者達と同様にこうした国際資本家とコミンテルンを核にした社会主義者・共産主義者達の利害が一致していたと主張しています。小職も同様の分析を別の本で読んだことがあります: なぜ太平洋戦争は起きたのかを分析するために読んだ本ですー「ルーズベルトとチャーチルが太平洋戦争を引き起こし、スターリンと毛沢東が漁夫の利を得た」というのが核となる主張です。ひとつだけ理解できない点があります。国際資本家とコミンテルンが手を組んだというのはどうも事実のようなのですが、なぜ国際資本家がそこまでコミンテルンに入れ込んだのかの背景にもう一段の説得力ある分析が欲しいですね。

 

  • 「元大統領顧問が導く、、、「自立国家」日本の創り方 100年後も繁栄する国にするには?」(北野幸伯、ダイレクト出版、¥1500)★★★☆ 

 

本書は2008年9月出版の「奴隷国家日本の岐路―今度は中国の天領になるのか?」(ダイヤモンド社)がベースになっていて、一部のデータの更新、一部追記・更新のみの手を加えたそうです。13年前に出版された本では「日本改革」を提言するなかで、いくつかの予測もしていて、3つの予測が的中したと胸を張っています: ①アメリカの没落、 ②日本に親中政権が誕生したこと、 そして③つ目の予測は「尖閣問題から日中対立が激化する」だったそうです。ということで、前著の評判は上々だったそうです。基本的には前著の内容がそのまま通用すると豪語し、上記程度の加筆修正で再発行したようです。確かに、一般の書物とは一線を画すような日本への直言が心地よいですね。一読の価値はありそうです。

 

  • 「改訂版西鋭夫講演録 新設・明治維新」(西鋭夫、ダイレクト出版、¥2980)★★☆☆ 

 

「『誰も言わない明治維新の真実』維新のヒーロー・坂本龍馬に一体誰がカネを出したのか!? 歴史の裏に隠されてきた驚くべき真実。 それを知れば、これでの歴史の見方が180度変わる、、、。」と銘打って、FBやアマゾンに広告が時々載っていますね、そうあの本です。ついに、買って読みました。なんだか著者の宣伝文句に乗せられたようでしゃくですが、、、 結論を端的に申し上げると、金を出したのは英国です。ただし、それはそれほど驚きではありません(当時の国際情勢からすれば、相当に予想のつく仮説です)。また、歴史認識が180度変わるということもありません。 過剰宣伝の本ですね。

 

  • 「竹山道雄と昭和の時代」(平川祐弘、藤原書店、¥5600)★★☆☆ 

 

著者は小職の好きな比較文学の大家です。彼の推薦もあって買って読んだ本です。 竹山道雄は映画にもなった「ビルマの竪琴」の著者として有名のようですが、本書のテーマは、彼が、戦前、戦中、戦後をつうじて一貫した「反専制主義、反共産主義、反人民民主主義」だった(世論に流されなかったということ)。 そこで、その思想・背景に迫ってみようという趣旨です。「はじめに」「あとがき」に目を通して、本論の中で少し気になる所に目を通すぐらいの読み方で十分でしょう。なにしろ、全部で520ページのハードカバーですから、読み応えありすぎです。 サクッと読みましょう。