塾長 図書案内

今月は以下の2冊を推薦図書としてご紹介します。手に取ってみていただければ幸いです。

1.「賢者は歴史に学ぶ」

皆さんは「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか?ドイツのビスマルクの言葉として有名ですね。また、本書の対談者の岡崎久彦氏がしばしば引用する言葉でもあります。本書は平成9年(1997年)3月にクレスト社より刊行された、岡崎氏と渡部昇一氏との対談本です。本書では、両者を次のように紹介しています。

  • ◆岡崎久彦
    1930年、大連生まれ。東京大学法学部在学中に外交官試験に合格し、外務省入省。ケンブリッジ大学経済学部卒業。情報調査局長、在サウジ・アラビア大使、在タイ大使などを歴任。現在は博報堂、千代田化工建設特別顧問。
  • ◆渡部昇一
    1930年、山形県生まれ。上智大学卒業後、オクスフォード大学などに留学。現在上智大学教授。専門の英語学において国際的業績を挙げる一方、文明・歴史批評でも活躍。94年、ミュンスター大学より名誉博士号授与。

 

本書は副題に「日本が『尊敬される国』となるために」とあります。日本の歴史観、教育、外交に一家言有る者同士の日本再生のための提言書(遺言)と言って良いと思います。
表紙の折り返し面に2名の著名人の推薦の言葉があります。前面の表紙は、京都大学名誉教授の会田雄次氏で、「これぞ本物の『歴史の読み方』」と題し、次のように推薦しています。
「『歴史は鏡である』と古人は喝破した。祖先の歴史を繙くとき、私たちはその中に現在の自分自身の姿を見る。
―中略―
戦後の日本はその『鏡』をはたして大事に扱ってきただろうか。歪んだイデオロギーや浅薄きわまる正義感で、自国の歴史を、とりわけ近代史を罪悪に満ちた暗黒の世界として描いてきただけではないか。歴史とは、もっともっと面白く、知的興奮にみちたもののはずである。本書の読者は幸福だ。ここには本物の『歴史の読み方』がある。過去を現在に結びつけ、そして未來を見通すーその知恵と教訓が、本書には満ち満ちている。一読をお奨めする所以である。」
裏表紙の返しでは、元内閣安全保障室長の佐々淳行氏が「“日本人の弱点”をカバーするために」と題し、本書を次のように推薦しています。「米ソ冷戦が終わったとき、大マスコミや進歩的文化人たちは、『国家の時代は終わった。これからは国際協調だ』と叫んだ。しかし、現実はどうだろう。国際協力が課題になればなるほど、PKOしかり、在外邦人の保護しかり、日本は『国家としての対応』、『国家としての決断』を迫られるようになっている。ところが、この『国家』というテーマほど、日本人にとって苦手なジャンルはない。戦後の日本では国家が一種の必要悪とされ、国家の観点から物事を語る人間は、『保守反動』と非難されたからだ。本書はこの“日本人の弱点”をカバーするための最良の書である。日本という国家の歩んできた歴史を、ユニークな視点で語る二人の『知恵』にこそ、日本の未来が隠されていると信じる。」
二人の大家以上の推薦の言葉はありません。小職が特に面白かったと思う点をひとつご紹介します。「歴史にイフは禁物だ」と良く言われますが、岡崎氏と渡部氏がそれぞれ、「イフ」を持ち出して、「こうすれば、第二次世界大戦への日本参戦は防げた」と述べている箇所です。「イフ」の中身は「読んでのお楽しみ」としておきましょう。

 

2.「疫病2020」by 門田隆将

世界各国の新型コロナ対応をドキュメンタリー風にまとめた本です。著者は1958年生まれで、中央大学法学部卒、新潮社勤務経験のあるジャーナリストです。
小職の大好きな台湾関連の本(①)、トルコ関係の本(②)の著者でもあります。
今回の図書案内は「疫病2020」についてですが、上記①、②も強くお勧めしたい本です。

簡単に紹介しますと、①は「この命、義に捧ぐー台湾を救った陸軍中将根本博の奇跡」(集英社、後に角川文庫)という本で、第19回山本七平賞受賞作品。②は、「日本、遥かなりーエルトゥールル号の『奇跡』と邦人救出の『迷走』」(PHP研究所)です。その他、原発に関心をお持ちの方であれば、「死の淵を見た男―吉田昌郎と福島第一原発」(角川文庫)の著者としてご存知の方も多いかもしれません。
さて、「疫病2020」のテーマは各国政府による新型コロナ対応です。同総会会員の中には、安倍首相、菅首相も「よくやっている」と評価していらっしゃる方もいるでしょう―多くはないかもしれませんが。しかし、「何やってんだ」と怒りとともに政府対応の遅さ、中途半端さを批判していた方も多いのではないでしょうか。小職は後者の一人です。あなたが、前者のグループに属するのであれば、本書を、「いや、その見方あは違うぞ!」「それは誤解だ!!」と繰り返しながら読むことになるでしょう。後者に属するならば、「そうだよね1」「そうなんだよ!!」と首肯しながら、読むことになるでしょう。
著者は2020年末から2021年1月下旬まで、総統選挙の取材のため台湾に滞在し、新型コロナに対する台湾の厳しい水際対策を含む徹底した台湾政府の対応ぶりを現地で見つつ、日本政府の「緩い」対応ぶりをイライラしながら見ていたようです。また、同時並行的に厳しい政権批判をSNSで発信していたようです。小職も2009年から2012年までの3年間、台湾に駐在した経験がありましたから、台湾の見事な対応ぶりはニュースで注意深くフォローしていましたので、著者と同様の感覚で状況を観ていました。

著者の批判の矛先は主に2つです。ひとつは、安倍首相、もうひとつは厚労省と加藤厚労大臣です。普段、著者は保守系の論者で、安倍首相の応援団の一人と言って良い人です。にもかかわらず、舌鋒鋭く安倍首相を批判しています。「危機管理がまるでなっていない」、「3.11の際の民主党政権並みの酷さだ」と。厚労省に対しては、更に厳しい批判が向かいます。「『国民の命を守る』という基本的役割についての認識と覚悟がまるでない」と。加藤大臣に対しては、ほとんど「無能者」呼ばわりです。小職が何よりも驚かされたのは、厚労省の役人、関係する医療関係者は皆、このウイルスは、「大したことない。大騒ぎすべきでない」と楽観視していたという事実です。結果、緩い対応に終始し、しかもタイミングも後手後手に回ったようだとの著者分析には本当に驚かされました。安倍首相は加藤大臣や厚労省を信頼し、「厳しい対応」を求める周囲の声を厚労省と同様のスタンスでなだめていたようですから、あきれるばかりです。

同窓会メンバーのほとんどの皆さんは山口県出身で普段は安倍首相の応援団であろうと思います。我が家では東京出身の家内は以前から安倍首相には厳しいスタンスで批判する側ですが、小職は逆に応援団で家庭内では異論反論が飛び交っていました。しかし、今回の安倍首相の対応ぶりには、その「無責任さと危機管理者としての無能ぶり」にガッカリさせられ、家庭内の議論は平和そのものだったのです。中国や習近平への配慮・忖度は目に余りました。習氏の国賓としての来日延期が日中両国からほぼ同時に発表された直後に、中国からの入国水際対応が急に厳しくなったり、「だんまり」を決め込んでいたオリンピック対応では急に思いついたかのように「延期」の発表がされたのにはあきれました。まるで「国民のオリンピック開催への心配は、どこ吹く風!?」の態度と「日本は実は中国の属国だったのね!!」と告白したかのような対応ぶりには、本当に情けなくなりました。

本書を読めば、いつ、何が、起きたのか、どのような告発や情報漏洩が中国内で行われていたのか、といった事実関係が時系列でわかりますし、当事者や当局はなぜそのような対応ととったの?という疑問に対しての背景や事情を丁寧に説明してくれています。
また、どういう教訓を今回の事例から得るべきなのか、についてのヒントもあります。強くお勧めできる本です。