最新の1冊―竹田恒泰著「天皇の国史」
先日、今月の1冊として矢崎節夫著「みんなを好きに 金子みすゞ物語」を紹介しました。並行して読み進めていた本の中から、是非もう一冊皆さんに紹介したい本があります。「最新の1冊」として紹介したいと思います。
著者の竹田氏は皇室ジャーナリストとしてテレビに頻繁に登場しますので、ご存知の方も多いでしょう。本書掲載のプロフィールによれば、「1975年、旧皇族・竹田家に生まれる、明治天皇の玄孫に当たる。慶応義塾大学法学部法律学科卒業。専門は憲法学、史学。作家。」とあります。
本編だけで653ページに及ぶ大著、かつ、日本の2000年以上にわたる通史を論じていますので、簡単には要約できません。 なので、竹田氏の言葉を引用しつつ、本署の概要をご紹介します。まず、「はじめに」で本書について著者は次のように書いています。
―「考古学と史学の最新学説をふんだんに取り込み、神代から現代の「令和」に至るまでの日本国史を一冊にまとめたものである。」
―「日本国史をどのように理解するかは人それぞれであり、本署とは違った答えもあるだろう。 中略。 国連加盟国は193あるが、私たちは縁があって、この時代の日本に生まれた。 こんなに面白い国の歴史を、自分の国の歴史として読めるのは、日本人の特権である。 日本の歴史を紐解いていくと、歴史を貫く一本の線があることに気づく。 それが「天皇」である。 天皇は日本人の歴史そのものといってよい。 しかし、これまで通史といえば、目まぐるしく交代する権力者を中心とした政治史が一般的だった。 本書は、二千年来変わることがなかった天皇を軸として国史を取り纏めたものである。 故に主題を『天皇の国史』とした。」
―「本書を執筆するに当たり、全ての時代について学会の最新の議論を把握することに努めた。 中略。 紙幅に制限があるため、参考文献は、実際に参照した書籍のほんの一部しか掲示できなかった、、、(末永コメントーそれでも15ページにわたる膨大な量です)。本書は筆者にとってこれまでの研究活動と執筆活動の集大成となったと思う。」
テレビで登場する竹田氏にご興味のある方にとっては、本書を読めば、彼の「歴史観」、「ものの考え方」のおおよそがわかり、テレビでの彼のコメントの裏側が読めるようになる、と言って過言ではなさそうです。 その彼の「歴史観」と「ものの考え方」の一端を本編からの4カ所の引用でご紹介します。
1. 「近年、米中を軸に、かつての東西冷戦と同じような対立構造となる可能性がある。自由で人権を尊重する資本主義の国の経済と、不自由で人権がない共産主義の国の経済が覇権を争う時代に入ると見られる。 そのように世界情勢が大きく変化する中で、日本はどのように独立を維持するのか、国民一人ひとりが当事者として意識を高めていかなければならない。」
2. 「先の大戦から学ぶことは二つある。 高度な情報を収集する力と、国際情勢を読み解く力を持ち、世界の動向を先読みして、いかなる状況に至っても「絶対に戦争を回避すること」が第一である。 そのような努力をしてもどうしても戦争が回避できない場合は、被害を最小限に抑えて「絶対に戦争に勝利すること」が第二である。そのために、今日本が何を為すべきか、真剣に議論しなければならない。」
3. 「神武創業の始めから、日本は激動の時代をいくつも乗り越えて現代に至る。 時代毎に天皇の在り方は変化してきたが、「祈る存在」ということは変わることがない。 明治天皇は、欧米列強からの浸食を食い止めようと、能力のある臣下を的確に信任激励なさって彼らに勇気と力を与え、以って日本をいち早く近代化させ、富国強兵の国に導き、日本を存立させた。 大正天皇は、人類の普遍的な価値観を大切になさり、誰もが模範とする理想的な家族像をお示しになり、天皇と国民との心理的距離を近づけた天皇だった。 昭和天皇は、前三代(孝明、明治、大正)の天皇の異なった要素をあますところなくお引継ぎになった。 均衡のとれた天皇でいらっしゃったと思う。 平成の天皇陛下は、全ての要素をさらに積み上げ、神武天皇以来の集大成とも申し上げるべきご存在ではなかろうか。 そして、そのような先帝を受け継ぐ今上天皇も、歴代でも理想的な天皇にお成りあそばすことだろう。」
4. 「およそ世界の王や皇帝は軍事施設の中に住むものである。 現在の皇居は徳川の城だが、1000年以上、歴代天皇がお住みになった京都御所には、濠も石垣も櫓もなく、中には兵が駐留する施設すらない。 外部とはたった一枚の塀で区切られているだけで、平城京や藤原京も同様だった。 天皇が民の幸せを祈り、民は天皇を敬愛して国を支えてきた。 そのような我が国の国体を、目で見ることができるのが京都御所の佇まいではなかろうか。 日本は天皇の知らす国なのである。」
日本史通史を扱った本は小職もこれまで数冊読んできました。 皇族出身ゆえに見える視点があるのだな、、、と思わされ、独自の視点にうならされることしばしば、といった感じの独特な本です。 一読の価値は間違いなくある本だと思います。 お勧めします。