図書案内21年6月8日更新しました。

図書案内21年6月8日「教員という仕事 なぜ『ブラック化』したのか」

著者は「朝比奈なを」。筑波大学大学院教育研究科終了後、公立高校で地歴・公民科教諭として約20年間勤務後、大学非常勤講師、講演活動に従事。現場経験も現場を外から見る経験もあり、教育問題に幅広い視点からアプローチできそうな立場の方です。小職が本書を手に取った理由も実はそこに期待したからでした。

 

著者が本書を執筆した動機は、「まず現状を知ってほしいという思いからだ」とあります。著者が最も伝えたかった点は2点だと思われます。ひとつ目は「教師たちは長時間労働勤務を強いられており、そして疲弊している」という悲鳴にも近い叫び; もうひとつは「教員の労働環境は厳しい。新しい業務がどんどん追加され、ストレスも非常に大きい。一方、労働慣行や待遇はなかなか改善されない。将来どんなことが起こっても生き抜ける人間を育てるという教育の責務をいまの学校や教員が果たせるのか疑問だ」という悲観的な観測です。

 

小職の率直な読後感は「失望」ですね。最初に本書内で著者が提案する変革私案へのコメント、2つ目には著者の現状に対する問題意識へのコメントを皆さんと共有しようと思います。

 

まず、著者による「変革私案」です。大きくは2つから構成されます:①「長時間労働を解消すべく、教員数を増やすべし」; そして、②「現在進行中の「教育改革」の方向性や具体策を見直すべき」というものです。 こうした対応によって、「教員の過剰な仕事量を適正化し、教員の同質化の進展に歯止めをかけるべき」と提言しています。小職のコメントは2つです:①現行の教育行政、法体系の枠組みの中で、何が「改善」可能なのか、その「改善」実施にはなにが障害になっていて、提案はそれをどう克服するのか」が明らかにされていない;②「変革」として、教育行政の「枠組み」の何を変えるべきななのか、法体系としてどの「法律」をどう変えるべきなのか、そうした変革が求められる根拠と現状の弊害との因果関係が明確にされていない」ということです。

 

次に、著者の現状に対する問題意識を確認し、それらに対する小職の感想を共有しましょう。著者は現状には以下のような課題があると指摘しています。①教員は忙しすぎる; ②教員の分断がじている(正規・非正規間および上下関係、そして評価による分断です); ③マスコミや一般市民の教育・教員への批判的な目線は不公正だ; ④現行の「教員改革、求める教員像」は教員の同質化を生んでいる; そして、⑤現場教員の教育行政(教育委員会や文科省)への不信感が強い、というものです。

 

率直に申し上げて、著者は世間知らずが過ぎますね。教員の世界での常識の多くが、一般社会ではいかに非常識であり、ずれているのか、という視点が決定的に欠けているように思います。小職はこれまで、職場として銀行、国際機関、民間製薬メーカー、上場持株会社、民間水産系商社での勤務経験、業務的には、事務、営業、営業企画、業務企画、人事評価(銀行の人事部人事グループ)、業務全般担当の取締役、社外取締役、不良債権・プロジェクト管理、コンプライアンス、CSR等の幅広い範囲で経験を積みました。 著者の視野の狭さや常識の欠如、及び教育業界内の自浄作用の無さには驚かされます。 例えば、現場の感じている課題が教育行政サイドと共有できているのであれば(通常に競争原理や市場原理が働いている業界ならば)、なぜ過去の課題がいつまでも解決されずに放置されてきているのでしょうか? 世の中はますます複雑化、高度化、多様化している中で、新たな課題が生じるのは教育業界に限らず、どの業界にも共通する傾向ですが、所管業務範囲が拡大するのは教員の世界だけのように勘違いしているようです。 また、教員の評価が能力・実績主義へとシフトしているのは、これも世間で一般的に普及している人事評価の変化トレンドですが、なぜ教員の世界では、分断につながるという負の側面だけが認識されるのか、、、理解不能ですね。また、負荷が増える一方で、処遇や職場環境が一向に改善されない、と不満のようですが、能力・実績主義が徹底されれば、よくやっている教員への処遇の改善につながるはずですし、そうした方々が管理職に登用されれば、職場環境の見直しにつながるはず、というのが一般的な認識であるし、実際に他の業界では起きていることだと思いますが、どうも教員の世界は違う、やや特殊な社会のようです。 もし、本当に特殊な側面が強く、小職の常識が通用しないのであれば、それがわかるように説明してもらいたいものです。

 

最後に、教育関係者ではない立場の小職からひとつだけ提言しようと思います。 最も効果的な変革案は、法改正が必要かどうかはわかりませんが、教育業界とその他の業界の人材をもっと活発に交流させるべきですね(出入可能なリボルビングドア方式)。そうすれば、教員が「閉じた世界」に閉じこもることがなくなるし、一般社会のいわゆるベストプラクティスを教育界にシームレスに導入できるようになるのではないでしょうか? 何らかの制約があって交流が進められないのであれば、せめて一般社会の有志との間で分業体制を構築して、教育業界はもっと外部からの支援を受けるべきでしょう。また、教頭や、副校長、校長の管理職、教育委員会、文科省の教育行政側にも幅広い経験を積んだ社会人をもっと投入すべきですね。